訴訟対象の「方向性電磁鋼板」は、
新日鉄の八幡と広畑の両製鉄所だけで
製造されている。
工場勤務の長かった幹部でも、
「生産工程は見たことがない」
という秘中の秘の技術だ。
変圧器などに用いられる特殊な鋼板で、
電圧変更時のロスなど従来製品の課題を
ことごとく解消。
鉄の結晶がきれいに整列する様子から、
業界では「鉄の芸術品」とも呼ばれている。
もともとは米国の技術だったが、
昭和43年に新日鉄の開発チームが
性能を飛躍的に高める製造技術を確立。
以降、同社は方向性磁性鋼板の
トップメーカーとなり、多大な利益を得ている。
しかし、平成16年ごろから
その地位を脅かすライバルが現れた。
ポスコだ。ポスコは以前から類似の鋼材を
手がけていたが、
「急激に品質がよくなった」(新日鉄幹部)。
価格も安く、次々に顧客をつかんでいった。
シェア約3割の新日鉄に対し、
ポスコも2割程度と一気に差を縮めた。
一方で、業界内にはある噂が広がった。
新日鉄はポスコ側に真偽を問い合わせたが、
独自技術と言い張るばかり。
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