席の隣には、朝丘雪路から
ケバさを削いで、さらに上品にした
ような40代後半くらいの奥様が。
小説を読んでいるようだったけれど、
小説を持っている手が、
ずっとぶるぶると震えている。
確かに、新幹線車内は冷房効き過ぎで、
冷蔵庫並に寒かった。
ふと、荷物の中にかっこつけ用の
無駄ジャケットが入っている
のを思い出し、それを出して
「よかったらこれを着てください。
席も替わります。
そちらの方が冷房が直接当たって
寒いですし」
と言って渡した。
奥様はびっくりしていたけれど、
素直に受け取って羽織ってくれ、
席も私の窓側と替わった。
そこへちょうど車内販売の
ワゴンが来たので、熱いお茶をふたつ
買い、ひとつは奥様に
「これ飲んだら暖まりますよ」
と渡した。
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