「私のこと抱きたい?」 「残念でしたーこれ見てくださーい!」 上半身裸になった嫁の体は傷痕だらけだった

俺の言葉を食い気味に遮って、

いきなり服を脱ぐ嫁

上半身裸になった嫁の体は

傷痕だらけだった。

火傷と切り傷の痕が上半身の

いたるところについてて、

肌は所々白みがかってまだら模様

鎖骨は両方とも歪んで盛り上がってて、

骨折してくっつき方が悪かったのが

見てすぐわかった

御丁寧にブラまで外して

その場で一周して背中まで

見せてからまたベッドに座って

「こんな女に手を出したがる

 男なんていますかー?

 いませーん!残念でしたー!」

ってゲラゲラ笑いだして

あー初対面の時の違和感って

これだったのかって

一人で納得しつつも、

何て言ったらいいのか

わからなくて真正面から目を見据えて

「大変だったんですね」

って言ったら、みるみる表情が消えて

怒ってるのか泣いてるのか

よくわからない顔になって、

死ね!もう来るな!

って叫ばれてまた殴られた。

今度はグーで。

帰ってから大変だった。

俺と嫁が出張に行ってたのは

みんな知ってる。

その俺は頬に痣作ってて、

嫁は無理して明るく

振る舞ってるのが見え見え。

課長から何があったか聞かれて、

「泥酔した嫁をおぶって帰ったら

 酔った勢いで殴られた、

 断じて手は出してない」

と伝えたけど、当然誰も信じない。

俺が嫌われてる腹いせに

襲おうとして殴られて嫁は

心に傷を負ったってストーリーの方が、

どう考えても面白いしわかりやすい。

昼休みにもならないうちから

そんな噂が出回るようになって、

あまり拡散するようなら訴えるかー、

でも仕事にならなくなったら

その前に辞職しなきゃ

ならんかなーとか考えてたら、

今度はなんと取締役の父親から

呼び出された。

これ本格的にやべえ、

立ち回りしくじったら最悪懲戒免職だと

内心震えながら役員室行ったら

なぜか事情聴取も叱責もなく、

仕事が終わったら

食事に付き合えとのお誘い。

で、仕事あがりにちょっとお高い店の

個室に呼ばれて差し向かいになって、

ちょっとした世間話や近況報告を

してから話を切り出された。

「娘から話は聞いた。

 事情はわかってるから君を咎める

 つもりは一切ない」

「ありがとうございます」

「ただ、気になることがいくつか

 あったからこうして呼んだ。

 娘の傷のことは誰にも言ってないな?」

「はい、言ってません」

「何故だ?」

「何故と言われましても、

 人に言いふらす事でもないですし、

 言いふらす相手もおりませんし」

「どうしてあんな体になったのか

 気にならないのか?」

「興味ないです」

「え?ない、のか?」

「全くないわけじゃないですけど、

 敢えて聞きたいものでも」

「…本心か?」

「?はい」

取締役はそうかとだけ返して、

そこで話は終了。

デザートまで飯食ってからそのまま

解散した。

ただ別れ際に

「あの子のことを悪く思わんでくれ」

と思い詰めたような顔で言われた。

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