「何十年もかけ、数百億円を投じてきた技術が、
なぜこんなに早く追いつかれたのか」
(宗岡正二社長)。疑念は募っていった。
平成19年、ポスコが韓国で起こした
裁判をきっかけに事態は急転した。
ポスコは、同社の元社員が方向性電磁鋼板の技術を
中国の鉄鋼メーカーに売り渡したとして提訴。
しかし、裁判で元社員は
「渡したのは(ポスコの技術でなく)新日鉄の技術」
と証言した。
これを受け、新日鉄が調査を開始。
同社元社員の証拠差し押さえを経て今回の提訴に至った。
事情を知る業界関係者は、
「ポスコ側に情報を漏らしたのは1人ではなく、グループだ」
と指摘する。
1990年代に新日鉄を退社した
開発担当者を含む数人が関与したらしい。
新日鉄が提訴したのはグループのリーダー格とみられる。
新日鉄は、方向性電磁鋼板の製造方法は
特許出願していない。
秘中の秘の技術は表に出さず、隠すのが通例。
ただ、関連特許は数多く、
元社員とは秘密保持契約を結んでいた。
元社員はどのように取り込まれたのか。
ポスコに限らず、日本企業の退職者を
積極的に雇用する外資は多い。
多額の報酬が提示されることもある。
「エージェントを通じて慎重に接触し、
籠絡(ろうらく)する」(事情通)ケースもある。
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